マオイストに遭遇 (ネパール)

 
 ネパールに入国してからというもの、マオイスト(反政府武装集団)の影響で、毎日のようにどこかで行われるバンダ(ストライキ)に悩まされていた。このバンダが行われると、車やバスがまったく走らなくなってしまう。エンジンを使うものはすべて駄目ということで、バイクさえ走っていないこともある。スーパーやお土産屋さんも営業しなくなる。テレビのニュースででも流すのか?はたまたラジオか?全国民がどうやってバンダのことを知るのかはよくわからないのだけれど、とにかく町中静まり返ってしまうのだ。さらに新聞には毎日のように、マオイストが仕掛けた爆弾が爆発したとか、大勢の人を誘拐したとかいったニュースが載っている。ネパールは今、大変な時期にあるようだ。

 5月17日、そんなバンダの中をかいくぐって、私達はやっとポカラまで辿り着いた。
 私は7、8年前、一度ポカラに行ったことがある。ポカラはその頃とほとんど変わらないように見えた。今でも、とてものどかな村だった。そんなのどかな村でも、やはりバンダは行われる。ホテルやレストランはかろうじて開いているものの(半分だけ門を開けていたりして、やってるんだか、いないんだかよくわからないところも多い)、スーパーやお土産屋さんはほとんど閉まっている。バスもあまり走っていないし、マオイストの影響で、旅行者自体も少なかった。

 ポカラに来た一番の目的はトレッキングだった。ネパールはトレッキングの盛んな国で、ポカラはネパールの中でも比較的、初心者向けのトレッキングコースが多いように思う。本当はアンナプルナベースキャンプまで行ってみたかったのだけれど、最低でも1週間くらいはかかるとのこと。もう少し短い期間で行きたかったので、ゴレパニとタトパニまで行くことにした。このコースだと5日間で行って帰ってこれる。そろそろ雨季にさしかかるころらしく、ポカラでも激しい夕立が降ったりしていたのだけれど、まだトレッキングにはそれほど影響ないと言われた。
 ところが、このトレッキングにもマオイストの影響が及んでいた。トレッキングコースに度々マオイストが出没し、トレッカーから通行料と称してお金をまきあげるらしい。相談した旅行会社では、「マオイストは紳士的で、お金を払えば旅行者には何もしないから大丈夫。通行料のディスカウントもしてくれるし、領収書も出してくれる。」とのことだった。つまり、マオイストに遭遇することは大前提なのだ。トレッキングに必要な許可証を作りにアンナプルナのトレッキング事務所へ行ったときも、当たり前のように「マオイストには会いますけどいいですね?」と念を押された。ルンビニで、アンナプルナベースキャンプまでトレッキングしてきたカップルに会った時、彼らもマオイストに会ったと言っていた。心配は尽きないが、とりあえずマオイストに会ったからといって、生死にかかわることにはならなそうだ。
 トレッキングには、なるべく早く出発したかったのだけれど、ゴレパニへのコースの出発点となるナヤプルまではタクシーかバスで行かなければいけない(歩いても行けるが、2日くらいかかってしまうそうだ)。ところが、バンダが行われているため、タクシーもバスも走っていない。しかたなく、バンダが明けるまで、出発を延期することになった。

 出発の日、天気はよく、タクシーの中からアンナプルナの山々がとても綺麗に見えた。この景色のおかげで、トレッキングへの不安が少しやわらいだ。
 トレッキングは順調に進んでいた。イヤ、順調だったのは私だけか?私は、不思議なくらい元気で、息も切らさず山を登り、山盛りご飯をたいらげていたのだけれど、くにおくんは、あまり調子が良くなかったのか、初日からバテバテだった。そしてポーターさん。トレッキングの初心者の私達は、重い荷物を持って歩くのはツライと考えて、ポーターさんを雇っていたが、このポーターさんがちょっと問題ありで、とにかく歩くのが遅い。まあ、荷物を持っているのだから多少は仕方ないのだけれど、あまりに遅い。お腹がすいたからご飯を食べたい、と自分から言い出すし、さらには、荷物が重くなったのか、通りすがった村人を勝手に雇って、私達の荷物をその村人に持ってもらっていたりした。この人は本当にポーターなのか?と思ってしまう場面が多々あり、私達はポーターさんとの信頼関係を築けずにいた。

 それでも、無事ゴレパニまで到着した。
 翌日の朝、ゴレパニから1時間ほど登ったところにある、プーンヒルに行くことにした。プーンヒルからはアンナプルナの山々がとっても綺麗に見えるという。このプーンヒルが、このトレッキング一番の山場だった。そして、このプーンヒルこそマオイストとの遭遇確率がもっとも高いところでもあった。朝、起きるとくにおくんは「体調が良くない。」とプーンヒルには登らないことを決めていた。私1人でマオイストと遭遇か!?とちょっと不安にもなったが、頼りないとはいえポーターさんも一緒に行ってくれるし、ここまで来てプーンヒルに登らないわけにはいかない。途中から韓国人の団体さんと一緒になり、ちょっと心強かった。プーンヒルからの眺めは最高だった。この日、天気はあまり良くなかったので、すぐに山々は霧の中に隠れてしまったけれど、それでも満足してプーンヒルを降りることにした。聞いた話によると、多くの人が、山を降りる出口のところでマオイストに遭遇しているらしい。緊張しながら降りていったのだけれど、結局、マオイストには会わなかった。この時期ここで会わなかったのは、かなり運がいいのではないかと思う。

 マオイスト遭遇ポイントを過ぎて、なんとなく安心して、次の目的地、タトパニ温泉へ向かうことにした。途中の休憩所で、日本人の女の子とガイドさんとの、2人組みのトレッカーに出会い、タトパニまで一緒に行くことになった。
 その日、昼食をとっていると、私達と逆方向から来た欧米人トレッカーが話しかけてきた。「マオイストに会った?」と。私達は、安心して、とでも言うように「いなかったよ。」と答えたのだけれど、次に彼らの口から出たのが「この先の村にマオイストがいるよ。」という言葉だった。一瞬みんなの顔がこわばる。するとその欧米人トレッカーは「マオイストは、タトパニで休暇を過ごしていたらしく、これからプーンヒル方面へ帰るところで、出会ってもなんの問題も無かった。」という。事実、彼らは無事に(お金も要求されずに)マオイストのそばを通ってきている。コースを変えるわけにもいかないし、大丈夫という話だったので、前に進むことにした。
 問題の村にさしかかると、なにやら嫌な雰囲気が漂っている。さらに近寄ると、ライフルを持った人々が見え隠れしている。村人はあまり外に出ていない。ガイドさんに「笑顔で”ナマステ”と言ってゆっくり通り過ぎれば大丈夫。」と言われ、一列になってゆっくり進む。ライフルを構えた女性の横を「ナマステ」と言いながら通り過ぎ、マオイストがたむろしている小屋の前をゆっくり通り過ぎる・・・。
 「もう大丈夫」村の外れに来て、ガイドさんがそう言った。みんなの顔が、ホッと安心した顔になった。

 タトパニ温泉は、温度も熱めで日本人好み。かなり気持ちがよかった。
 温泉では日本人のおじさま3人組に出会った。3人+ポーターやコックさんなど総勢15人という大所帯で、15日間ほどかけてアンナプルナを一周してきたそうだ。アンナプルナ一周というのは凄い。6000メートル以上ある峠を越えたりするのだから。ちなみに、おじさま達はみなさん70歳前後というお歳だ。いくつになっても出来ないことなどないのだ、と思わせてくれるような素晴らしい方達だった。

 山の中を歩くというのは想像以上に気持ちよく、また、5日間でこんなに歩けるのものなのか、という達成感のようなものもあった。トレッキングや山登りにはまってしまうのもわかる気がする。温泉でのおじさま達との出会いも、私達の旅の刺激になった。
 何事もなかったからこそ言えるのだけれど、マオイストに遭遇したのもいい経験だったかな・・・。

一番上に戻る