インドの国境で捕まる? (インド4)

 
 インドからネパールへ向かうときの事。最初の計画では、カカールビッタという、ダージリンの近くにある国境からネパールに入国しようと考えていた。ところが、ネパール国内がマオイスト(反政府武装集団)騒動でゴタゴタしており、国内移動が困難になっていたため、ネパール最初の目的地であるルンビニに近いゴーラクプルという町までインド側から移動し、そこからネパールに入国することにした。

 ゴーラクプルに着くと、ホテルのおじさんからネパールとの国境が閉まっていると聞かされた。マオイストの影響でストライキが行われているらしく、4日後にならないと開かないらしい。ところが、道端で会った欧米人に聞いてみたところ、明後日には開くという。こんなときは、いろいろな噂が飛び交って混乱するものだ。インドでは特に、いろいろな人がいろいろな事をいうので、その混乱が大きくなる。ゴーラクプルから国境までは、それほど遠くないので、駄目だったら戻ってくればいいや、と2日後にネパール行きを決定した。

 2日後、ゴーラクプルからバスに乗り、国境に行ってみた。ここの国境は、いままで通ってきた国境とは違った独特な雰囲気があった。通りには大きな門があるだけで、地元のインド人やネパール人は普通の道と同じように行き来している。インド側の門の横に小さな出入国の事務所があるだけ。事務所を通らず、そのままネパールに入国してしまっても誰も気づかないだろう。ネパール側の入国手続きの事務所も開いているようだし、これなら楽勝、のはずだった。

 まずは、私がインド側事務所の前の椅子に座っているおじさんにパスポートを渡す。おじさんはパスポートをパラパラとめくり、出国スタンプを押してくれた。
 続いて、くにおくん。今度もおじさんはパスポートをパラパラとめくる。ところがいつまで経ってもスタンプを押してくれない。嫌な予感がする・・・。
「どこから入国したんだ?」と聞かれる。
「コルカタの空港からです。」と答える。
「パスポートに入国スタンプがないよ。」とおじさん。
「えぇ〜っ!」
とこれには私達もびっくり。おじさんからパスポートを奪い返し、自分達で一枚一枚ページをめくる。ない!くにおくんのパスポートに入国スタンプがないのだ!!
 おじさんは「プロブレムだ、コルカタの空港に戻って入国スタンプを押してもらってきな」と冗談とも本気ともつかない口調で言った。まずい。ここは何とか食い下がるしかない。
「夫婦2人で一緒に旅行してるんですよ、ミャンマーから飛行機でコルカタに来たんです。」と必死に出入国カードをアピール。出入国カードには入国スタンプが押してあるのだ。こんなときは、できるだけ困った表情をして係りのおじさんの同情をかう作戦だ。
「航空券はあるのか?」と聞かれた。
「あります、あります。」とかばんの中を探したけど、出てくるのはいらない紙切ればかりで、肝心の航空券の半券がない。バンコクからミャンマーに来たときの航空券があって、同じビーマンバングラディッシュ航空のものだったので、試しにそれを見せてみる。すると、おじさんは納得した様子。こんなところはインドっぽい。とりあえず何か見せた方がいいのだ。それでもまだ、スタンプは押してくれなかった。
 そしてついには、くにおくんが事務所の中に呼ばれた。くにおくんが不安げな表情でこちらを見ている。そこで、私も一緒に事務所に入っていこうとしたけど、「外で待ってろ。」と言われた。事務所の中では、先ほどまでのおじさんよりも、ちょっと偉そうなおじさんとくにおくんが何やら話している。私にできることは、外のおじさんと仲良くなっておくくらいの事だった。デジカメなどを見せながら、明るく、そして出国したいという思いを込めておじさんに話しかけていた。
 思い返せば、インドの宿でチェックインするとき、くにおくんのパスポートを見せるたびに、フロントの人がパスポートを何回もめくって、「いつ入国したの?」と聞いてきていた。気にはなっていたのだけれど、入国スタンプがなかったからだったんだ・・・。

 しばらくすると、私も事務所の中に呼ばれた。入っていくと、くにおくんの座っている机の上に、真っ白い紙切れが一枚置かれていた。偉そうなおじさんが「この紙に、私はコルカタから入国しました。入国スタンプがないのですが、出国させてください。」と書けという。くにおくんは焦って緊張気味、手には汗がベットリ。戸惑っていると、偉そうなおじさんがペンを取り、スラスラと自分で書いてしまった。そして「250ルピー払え。」と言ってきた。やっぱりお金かぁ。試しに「もうちょっと安くなりませんか?」と聞いてみたが、半ば呆れ顔で「これでも安いくらいだよ!」と言い返されてしまった。ここで言い合って、出国できなくなっても困るので、250ルピー払う。
 考えてみれば、ただの真っ白い紙切れ、というのはどうも怪しい。正式な書類ではないだろう。となると、250ルピーはそっくりおじさん達の懐に入るのだと推測される。そもそも入国スタンプがないのだって、空港の入国係員のミスだし・・・。でも、スタンプがないのは事実なので、こちらの立場が弱い。この場合250ルピーで済んだのが良かったと考えた方がいいなと思った。
 お金を払って事務所の外に出ると、先ほどのおじさんがパスポートに”3月29日、コルカタの空港から入国”と手書きで記入。そして無事インドを出国できたのだった。

 入国スタンプを押されなかったなんて初めて。しかも、スタンプがないのに賄賂を払って出国できちゃった。最後まで、インドには驚かされることばかりだったなー。

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