インド料理にはまる (インド3)

 
 インドに入って1週間くらい経ったころからだろうか、食事といえばマサラという香辛料の、いわゆるインドカレーばかりで、早くもインド料理にギブアップ寸前だった。ポテトチップスはもちろん、売店で売っているカステラにまでマサラ味があったり、マサラの粉みたいなのが売っていて、インド人はそれを飴やガムのように食べていたりする。このマサラの嵐に嫌気がさすのは、私達だけじゃないだろう。
 ちょうどこのころ滞在していたバラナシやカジュラーホーには、日本料理や西欧料理を食べさせてくれるレストランがたくさんあり、そんなレストランにばかり通う日々が続いた。特に美味しい日本料理や西欧料理があるわけではないのだけれど、とにかくカレーが食べたくなかった。

 ところが、南インドに向かい始めたころから、徐々にインド料理に対する考えが変わってきた。

 まずは、アウランガバードという町で食べたベイグン(ナス)カレー。辛いんだけれどクリーミーで、ナスとソースがうまくマッチしていて、この後もこれ以上美味しいカレーは見つからなかったほど。インドカレーってこんなに美味しいんだ、と感動した。
 更に、マサラドーサとの出会い。少し酸味のあるパリパリしたクレープのような生地(これをドーサと言う)のなかにマサラ味のジャガイモカレー(スープ状のカレーではない)が入っている。この酸味とマサラの組み合わせに、ヤミツキになっていった。もともとは南インドの料理らしいけれど、インドのどこのレストランでも見ることのできる定番料理だ。これは特にくにおくんがお気に入りで、しょっちゅう食べるようになっていった。 極めつけは、南インドの定食、ミールス。バナナの葉っぱの上に、ライス・何種類かのスープ状のカレー・お漬物のような野菜・パリパリしたおせんべいプーリー、がのっていて、それぞれを手でまぜながら食べる。ライス好きな私にとって、これは嬉しかった。カレーと野菜の混ぜ具合を自分で調節して、いろいろ味を変えて楽しむこともできる。南インドでは日に一食はミールスを食べていた。たいていは、お替り自由なので、おなかいっぱい食べることができる。ミールスだと、山盛りのライスもペロリと食べられてしまう。

 アレッピーからクイロンにかけてのバックウォータークルーズの移動では、ある日本人カップルと出会った。彼らは、インドに入って1ヵ月、インド料理を習っていたそうだ。自分で料理を作るようになると、レストランで食事をしても、どんな食材や香辛料が使われているかが分かるようになり、面白いと言っていた。インドにはたくさんの香辛料があり、その調合の具合で、微妙な味を出すらしい。なるほど、インド料理は奥深い。

 タージマハルのある町、アーグラーでは新しい発見があった。アーグラーのJhone's Placeというレストランに入ったときのこと。コックのおじさんが、しつこく声を掛けてくるので、最初は胡散臭く思っていたのだけれど、ためしに入ってみて、おじさんの勧めるがまま、マライコフタとシャヒパニールという料理を注文した。これがかなり美味しかった。マライコフタとは、ミートボールのカレー煮といった感じなのだけれど、いままで食べてきたインドカレーとまったく違った味で、絶品。シャヒパニールはトマトとジャガイモとチーズのカレー。これまで一種類の野菜のカレーを選ぶことしか知らなかったので、感動だった。この2つの料理もインド料理の定番で、おいてあるレストランも多く、いろいろなレストランで食べてみたけれど、残念ながらこの後ここJhone's Placeを越える味のものには出会えなかった。

 こんなわけで、50日のインド滞在を終える頃には、「インドを離れたら美味しいインド料理が食べられなくなる、どうしよう」と本気で悲しくなったほど。そして今でも、「マサラドーサ食べたいね」とか「ミールス食べたい!」なんていう会話が飛び出してくるほど、インド料理の虜になってしまったのである。

一番上に戻る