「幸せですか?」 (ミャンマー 3)

 
  ミャンマーにあるインレー湖に行ってきた。ここでは、今でも湖の上で生活している人がいて、僕はその人たちの生活ぶりを見てきた。小船に1人、網で魚を捕っているところ。お土産用の日傘や銀細工、タバコの作っているところ。湖上に浮いた畑にトマトがなっているところ。でも、ここではそれだけじゃなくて、湖畔にあるニャウンシェン村の人たちと仲良くなることもできた。

 その村に着いた当日。ホテルにチェックインし、移動の疲れを1時間だけ癒して、夕食を食べに行くことにした。ホテルを出ると、もう辺りは暗かった。犯罪なんて起こらない平和そのものの村だって聞いていたし、村の端から端まで歩けるほどに小さい。道も格子状で迷うことはなく、ホテルから目的のレストランまでは、歩いて10分ぐらいだった。僕らは暗いことも気にせずに、そのままホテルを出ていった。地図を片手に、外灯や民家の明かりでそれを照らしながら、歩くこと5分。道のりの半分ぐらい来たとき、突然、目の前が真っ暗になった。辺りを見渡しても、外灯、民家からまったく灯が消えている。唯一の例外は、夜空に光るお月様とお星様だった。さあ、どうするか?ここで停電が終わるのも待つのも、下手するとここで朝を迎えることになる。そうかといって、ここから引き返すのもせっかく来たのでもったいない。しかたがないので、地図の記憶とお月様を頼りに、レストランに向かうことにした。しかし、これだけではなんとも頼りなく、真っ暗な道を歩くのは30才になっても少々怖かった。もちろん、僕はお化けなんか信じていない(ちなみに宇宙人は信じています。この後、敦煌でUFOを見たので・・・)。それに、この村が十分安全だということも知っていた。しかし、横浜では停電なんて起こらないから。まったく慣れていないことということは、怖いことで・・・。さっちゃんとの距離をいつもより短く保って歩いていった。が、やっぱり怖く、殺人鬼が後ろから襲ってくるんじゃないかとか、どぶに落ちやしないかとか、歩いているときはいろいろと頭の中で浮かんでくる。これから食べる料理、明日の予定など、違うことを考えるようにする。が、それもなかなか上手くはいかない。料理→予定→殺人鬼→料理→予定→殺人鬼とこんな感じに、頭の中をぐるぐると廻っていた。ぐるぐる廻りながらも、「僕も男の端くれ」と思って、ぐっと堪えた。体内時計では停電から30分も過ぎたころか?漸く窓からオレンジ色の火の光りがこぼれている建物が現れた。それを見た僕とさっちゃんは,まるで競歩でもやっているかのように、抜きつ抜かれつ、先を争ってその建物目掛け、歩いていった。

 その建物の前に着くと、開けっ放しのドアの脇にある看板を見る。そして、それが探していたレストランだということが2人とも分かった。僕は、開けっ放しのそのドアから薄ぐらい部屋の中を覗き込んだ。ローソクを置いたテーブルがいくつかある。そして、1番奥のテーブルには、7,8人の人が腰を掛けていた。
「すみませーん」
と僕が言うと、一番奥のテーブルでなにやら相談が始まり、しばらくして周りのみんなに促され、座っていた1人がこちらにやってきた。背丈が160cmぐらいの細身で、顔は宇多田ヒカルを似た美人の女の子だった。
「ご飯は食べられますか?」
僕が尋ねると、その女の子は何か戸惑いながら、
「もう一度言ってください。」
と小さな声で返す。僕は、英語の発音が悪くて、聞き取れなかったんだと思い、自分なりに発音を良くしようと努力し、ゆっくりと言った。
「ご飯は食べられますか?」
それでも彼女は理解できなかったらしく、慌てた様子で奥のテーブルに助けを呼んだ。すると、今度はかなり体格のよい人が席を立ち、僕らの前にやってきた。
「ご飯は食べられますか?」
3度尋ねる。その体格のよいおじさんは、
「もちろん!ここに座って」
と入り口に一番近い席を指差し、返事をした。僕らは促されるままに椅子に座ると、おじさんは奥からメニューを取ってきて、テーブルに置いた。
「私はここのオーナーで、今、ここに座っているみんなに、英語を教えていたところなんだ。あの子は3日前からここに通っていて、まだあまり話せないんだよ。ごめんね。」
恥ずかしそうに席に着こうとしている女の子を指差して言った。
いやいや、僕の方こそ、発音が悪くてすみません。日本に帰ったら駅前留学しようと心に誓うのであった。僕らはおじさんにお勧め料理を聞いて、言うとおりに注文した。

 暇なのでガイドブックを開きかけたとき、恰幅のよいおじさんが話し掛けてきたんだ。「さっきの子は、あまり英語をしゃべったことがないんだ。良かったら、なにか話してあげてよ。」僕らに英語を教わるというのはどーなのかと、2人で顔を見合わせたんだが、外人に慣れればと思い承諾した。でも、いきなり英語を話せと言われても、何を話してよいのやら。まして、僕らの英語力では簡単な質問になってしまった。「お名前は何ですか?」って言うと、さっきの女の子が周りの人に質問の内容と自分の答え確認して、「私の名前はニャウンニャウンです。」と答えた。今度はニャウンニャウンちゃんが「お名前は何ですか?」と言ったので、僕らはそれぞれの名前を答えた。「あなたの何歳ですか?」「どこにお住まいですか?」「仕事は何ですか?」こんな中1レベルの質問がしばらく続いた。
 それまでは、簡単な質問ばかりだったが、いきなり厳しい質問が飛んできた。
「あなたは幸せですか?(Are you happy?)」
僕の頭の中でいろいろ駆け巡る。
(幸か不幸か?健康に育ち、結婚し、やりたい旅をしているから、幸せと言えば幸せかもしれない。が、今だ物事が分からず、迷い、悩んでいるから、幸せじゃないかもしれないなぁ。どう答えようかぁ・・・)
「はい」
僕がそんなことを考えてる脇で、さっちゃんが力強くはっきりと答えた。僕はちょっと喜ぶ。
(おー。さっちゃんは幸せなんだ。僕と結婚してよかったと思っているんだ。僕もすこしは彼女の幸せに役立っているんだなぁ)
そんなことを思っていると、さっちゃんも聞き返した。
「あなたは幸せですか?」
「もちろん!私もあなたたちと会えて幸せです。」
(???)
さっちゃんに小声で聞いてみる。
「彼女、今、この場が楽しいかどうか、を聞いてたの?」
「そうだよ。何だと思ったの?」とさっちゃん。
「いや。別に。」
(そうだったのかぁ・・・)
僕が残念に思っていることも知らず、さっちゃんは質問に答え続けていた。

 食事が出てきてからも質問合戦が続いた。が、僕らも彼女もそれほど英単語を知っているわけじゃない。食べ終えてからしばらくすると、どちらも沈黙する回数が増えた。それを見ていたオーナーは、程よくして、「みんなで写真を撮ろう」と言いいだし、僕の首に掛かっているカメラを貸してとジェスチャーした。僕は、カメラを渡しファインダーの向こうに並んだ。写真を撮り終えて、おじさんは隣のインターネット・カフェに行ってしまった。僕らは頭にある英単語を捻出して、再び彼女とやりとりをした。幸いな事におじさんは、僕らの単語が出し切らないうちに帰ってきた。手にプリントアウトした写真を持って。そして、ニャウンニャウンちゃんたちに見せて、なにやら感想を述べていた。そして今度は僕らに見せて、英語で「もうちょっとアップの方が良かったね。」と言っていた。

 しばらくして、僕らは支払いを済ませ、帰ろうとしたとき、ニャウンニャウンちゃんが僕らのテーブルに来た。そして、僕らに向かって言った。「もし、明日時間があれば私の家に招待したいのですが・・・」僕らは勿論喜んで、行くことにした。
 次の日はどうなったかと言うと、ニャウンニャウンの家でご家族の皆さんとお菓子を食べながら話し、村にあるパゴダを案内され、今度は昨日レストランにいたニャウンシーちゃんの家に案内され、そこでインダー料理をごちそうになりました

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