トレッキング (タイ2)

 
 タイのチェンマイというところで、トレッキングというものに初めて挑戦してきた。と言っても、そんな本格的なものじゃない。何千メートルの高さの山道を、ハアハア言いながら歩くのは嫌だから。今回は、象に乗ったり、川をいかだで下ったり、遊び半分のトレッキング。でも、これがなかなか面白かった。 

まず、1日目は、滝と温泉が見どころだった。最初は、片道一時間、滝まで往復するトレッキングだ。小川に架かる丸太の橋を渡ったり、山道の途中に倒れた老木を乗り越えたり。足どりはスキップでもしているかのように軽快だった。が、山中に入るにつれて、アップダウンが激しくなって、10分も過ぎたころには息が上がっていた。
そんな僕とは対照的に、僕の前を元気よく歩いている女性がいた。日本人大学院生のユウコちゃんだ。スキンヘッドの背の高い体格の良い欧米人とならんで歩いていた。僕には一歩引いてしまいそうなちょっと怖い感じの欧米人に見えて、なかなかお友達にはなれなそうなタイプだったんだけど、彼女にはそんな風に見えないのか、トレッキングを始めて10分でその欧米人と楽しそうに何か話していた。そういえば、トレッキングに来るのに乗ってきた車のなかでもそうだった。僕とさっちゃん、それにユウコちゃんと始めに乗っていて、次にオーストラリア人(アンジェラ)の女性が乗ってきたときのこと。僕とさっちゃんだけなら、自己紹介だけで終わっていただろうけど、ユウコちゃんがいたのでそれだけではなかった。アンジェラの自己紹介が終わると、さっちゃんが折り紙を持っていることを知っていたユウコちゃんは、みんなで鶴を折ろうと提案した。そのとき僕なんか、「車の荷台で鶴なんか折れないよ」なんて思っちゃうんだけど、後から考えてみたらこれがとっても良かったと思う。僕達日本人がアンジェラに折り方を教えてあげて、英語を使わなくてもコミュニケーションが増えたし、荷台に揺られながら作ったんで不細工な鶴になって笑いも起こった。車の荷台が和んで、とても居やすくなった。
その後の滝のトレッキングはというと、行きの道はかなりヘロヘロで、愚痴をこぼしながら歩いた。それでも、まあ、滝に着くと気持ちが良くて、トレッキングもなかなかいいなあなんて思ったり。あまりに気持ちが良くて、はしゃいで顔を洗ったり、足を滝壷に漬けたりしたんだけど、少々浮かれてすぎてしまっていたのか、帰りの道は来た道より何倍も大変だった。

 滝に着いてしばらく休憩して帰ろうとしたとき、さっちゃんが言った。
「最後に滝をバックに写真を撮ってよ。」
僕は自分のカメラを持ってきてなかったんで、さっちゃんにカメラを借りようとした。
「いいよ。カメラ貸して。」
さっちゃんは、手首に掛けていたカメラを両手にとって、カバーから取り出し、左手に持って僕に渡そうとした。僕は、右手を伸ばしてカメラを掴もうとした。が、その瞬間、するりと指の間をすり抜け、重力にしたがい地球の中心を目掛けて、毎秒9.8mの加速度で進んでいった。「あっ」と思ったが、カメラは無常にも岩にあたり、バウンドした。さっちゃんが、素早い反応で、一回目のバウンドでカメラをすくい取った。そして、カメラの全体を見て、壊れていないか確認する。しばらくして、さっちゃんが言った。
「レンズカバーが閉まらない。」
「エッ」と思い、よく確認してみると、電源を切ったのにレンズカバーが空きっぱなしになっていた。ガビーン。(って、今は使わないのかな?僕は今でもよく言います)壊れてる。さっちゃんは再び電源を入れる。液晶画面に再びレンズの先の風景が映し出された。もう一枚写真を撮ってみる。「ピピッ」。写真は再び撮れた。再び電源を切る。レンズカバーは閉まらない。
こんなことを繰り返しやって調べてみると、どうもレンズカバーだけが閉まらなくなり、それ以外のところは正常に機能することが分かった。
「ごめんねぇ」僕が言うと、
「もっと注意してよ。これで2度目だよ。」
「ごめん」
しばらくして、カメラをしまい、帰るために歩き始めた。帰り道では僕は謝り続ける。「ごめん」と何十回も言い、カメラの渡し方を決め、もう落とさないこと、僕が写真を撮るときは僕のカメラを使うことを約束する。そんなことをして、帰り道中、全力を持って謝り続けた。トレッキングの辛い山道が気にならないくらいに。その熱意が通じたのか、1時間の帰り道も終わりに差しかかった頃、なんとか許してもらった。このまま、トレッキング中、怒ったままだったら、どうなちゃうんだろうって心配してたから、本当に良かった。山道以上に大変な帰り道だったけど、行きより帰りの道の方が、随分と短く感じられて良かったかもしれない。
さて、1日目のもう1つの目玉は温泉だった。滝のトレッキングが終わって、車で移動し、次のポイントから再びトレッキングを開始した。海水パンツもズボンの下にはいており、いつ着くのか期待していた。が、5分も歩くとすぐに硫黄の香りがしてきて、さらにすこし歩くと、すぐに湯気が見えてきた。どんな感じの温泉なのか近くに行ってみると、水面からぼこぼこと泡が出ていた。そう、ここは温泉ではなく、ただのHOT SPRINGだ。ズボンの下に履いていた海水パンツがむなしかった。
その後のトレッキングも頑張った。三時間も歩くとやっと本日宿泊する村に着いた。すでに夕暮れになっていて、ガイドのジョーがすぐに外にある水道でシャワーを浴びるように言った。そこで、真っ先に水浴びをしていたのが、鶴を折ったアンジェラだった。アンジェラ姉さんは、周りが開けて見えているのもまったく気にせず、大胆に髪の毛を洗い、顔を洗い、体を拭いていく。そして、布団を決めるときもそうだった。二組の布団の一つの蚊帳が付けられていて、アンジェラ姉さんは男性と一つの蚊帳になることはまったく気にせずに、空いてる布団に決めた。さすがに、村の人もそこはまずいと思って、もう1つ布団を用意してくれたが、もしそのままでもアンジェラ姉さんはぐっすり寝ていただろう。

 水浴びした後は、ジョーの手作りの夕食を食べ、キャンプファイアーをした。9時にもなると、皆寝始めた。ビールを飲んで騒いでいるドイツ人3人以外は。

 2日目。この日のイベントは、象に乗って次の村まで行くことだった。象には普通2人象の背中にある椅子に乗るのだが、僕とさっちゃんとユウコちゃんで乗ることとなり、僕はいつもは象使いが乗る象の首に乗ることになった。象の乗り心地はひどい。歩くたびに、象の体から振動が僕のシリ、腰、背骨を通り、首、頭へと響いて行く。それに加え、この日はとても日差しが強くて、村につく頃には振動と暑さで頭がボッーとなっていた。

 この日は随分と日の高いうちに村に着いた。時間があったので、子供たちにケンケンパを教えてあげた。が、ケンケンパができるのは、1人だけでほとんどの子供たちは、口で「ケンパケンパケンケンパ」というのだが、足は「ケンケンケンケンケンパ」となっていたり、「ケンケンパケンケンパケンパパ」となっていたり、めちゃくちゃだった。が、みんな笑ってやっていたので、それはそれで面白かった。

 最終日は、イカダ下りがメインだった。泊まった村からイカダで最後の村に向かう。僕は舵取りを任されたが、他の舵取りのイングランドの兄ちゃんに比べると、役に立っているのかいないのか、分からないぐらい非力であった。それでもやれるだけの事はやった。ガイドのジョーが右と言えば、右に舵取り棒を川に差し、体重をかけてイカダのケツを左に向ける。左といえば右にケツを向ける。急流にくると、素早く方向転換しなくてはならず、少々息が切れる事もあった。この日は、天気がよく、日差しも応えたが、最後の方は流れが緩やかになり、水着に着替えていた僕らは、川の中に入って遊んだりした。

 これでトレッキングは終わったんだけど、すごく面白かった。ガイドのジョーも他の参加者達もみんな楽しんだだろう。このときに参加できてすごく良かった。ガイドのジョー、他の参加者、村のみんなに感謝したいと思います。もちろん、さっちゃんにも感謝しています。トレッキングでも、1番長く一緒にいたので。ありがとう。

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