僕たち出国できないの? (1/12 成田空港)

 
日本に帰る航空券がないと、香港で入国許可がおりません。そのため今のままでは、片道だけの航空券をお渡しすることはできません。」
(えっ。なに?どういうこと??? )
そう僕が思うのよりも早く、さっちゃん(妻)が予約券を航空券に引き換えてくれる窓口のお兄さんに説明する。
「旅行会社で購入するときに、片道の航空券で入国できると言われました。念のために支払いするときにも確認したんですよ!」
激しい口調でそう言うと、やさしそうなそのお兄さんもちょっと困った様子で、あちらに行っては相談したり、こちらに来ては携帯電話で話したり。でも、どうにもならないようで、お兄さんは、
「やはり駄目みたいです。予約した旅行会社にご連絡できますか?」
と言う。僕は「今携帯電話がないのですぐには・・・。」
と答えると、お兄さんは自分が使っている携帯電話を貸してくれた。さっちゃんがその電話で旅行会社に連絡し、現状を伝えると、
「今、香港から広州に向かう鉄道の切符を取ります。そして、そのコピーをファクスで成田空港に送ります。それを窓口の人(お兄ちゃん)に見せれば航空券を渡していただけるはずです。」
と旅行会社。僕らもちょっと安心し、事情をお兄ちゃんに説明する。しかーし、お兄ちゃんはあくまで帰国する航空券がないと、片道の航空券を引き換えることができないと主張する!

 さっちゃんは再度、旅行会社の人にそのことを説明。一通り終わると 「どーすんのよー。出国できなかったらどーしてくれるの?」 という気持ちを沈黙で表現する。
しばらくして、旅行会社の人は2つの選択肢を提案してきた。

A:旅行会社が明日の往復航空券を取るので、今日は成田に一泊して明日そのチケットで香港に行く。もちろん成田での一泊は旅行会社が負担する。

B:僕らが今から帰国するための正規の航空券をすぐに買い、後日自分たちでその航空券を払い戻す。

 暇はあるが金がない僕たちは、10万近くする正規の航空券を購入するのが嫌だったし、出発が一日遅れたからといって特に予定もなく、帰国が一日遅くなるだけなのでAを選択した。そのことを旅行会社に伝えると了承して、ホテルの予約が取れたら再度連絡すると言って電話を切った。しばらく成田空港の窓口の前でたたずむ。
・・・・・。

 ぼーっと待っていると、お兄ちゃんがスレンダーなお姉さんを連れてきた。服についているマークを見ると、どうやら搭乗便の航空会社の人であった。
「今、上司と相談したところ、ご搭乗して頂けるようになりました。ただし、入国できないかもしれませんので、それを承知していただければなりませんが・・・」
お姉ちゃんが言う。そして、その手にはなにやら紙が。
(これはバックパッカーのホームページで読んだことがある誓約書だ。入国できなくても、僕らが航空会社に責任を負わせないようにするものではないか!僕らも旅の初っ端からそんなトラブルに陥るとは、先々も不安だ。)
僕とさっちゃんは再度相談した。入国できないかもしれないが行ってみるか?成田で泊まって明日行くか?結局、少しの不安もなく行きたかったし、このときにはすでに疲れていて、今から行って宿を探す元気もあまりなかったので、やはり成田に一泊していくことを選択した。そのお姉さんは了解し去った。再び旅行会社からの電話待ち状態に。
・・・・・。

 三十分ぐらい待ったであろうか?やっと電話が来た。 「ホテルが取れました。xxxホテルの・・・」
ホテルの説明が終わると、旅慣れたさっちゃんがお金のことを確認する。
「お金は私たちが始めに立て替えておいて、いつ払っていただけるのでしょうか?」 次の瞬間、旅行会社の話しているさっちゃんの顔が険しくなった。
「お客様のいうことをすべて信じるわけにはいかないって。旅行会社が払ってくれるか分からないよ!」
怒りながら僕に言った。
(ふざけんなよ。売るときには良い事言っといて、トラブったらこんな対応かよ)
なおもさっちゃんは、
 「でも、確かに購入したときに二回もお尋ねして入国できると言われましたし、お支払いするときにも再度確認しても大丈夫だと言われました!!!」
と言い、それからしばらく旅行会社の人と、言った、言わないと話していると、先ほどのスレンダー美人のお姉さんが再びご登場した。さっちゃんは電話をいったん止め、お姉さんの話しを聞くと、
「再度上司と相談したところ、ご搭乗していただけることになりました。」
「なにも書かなくてもいいんですか?」
とさっちゃん。
「はい」
これは思わぬ展開。話し途中の電話に向かって、
「行けることになったんで、もーいーです。」
怒りを思い切り電話にぶつけ切った。

 良い展開になったのだが、これからまた地獄が待っていた。それは、このときすでに離陸予定時間の15分前でちょー急がなければならなかったからだ。
「大きな荷物は私が預けますので、急いで航空券を貰って手荷物検査に向かってください。」
 バックパックをお姉さんにお願いして、急いで窓口に行く。そして、お兄ちゃんに再度予約券を渡して、代わりに航空券を貰う。その後、手荷物検査に行くと、すでにお姉さんが検査待ちの列に並んでいた。
「急いでください。こちらです。」
僕らはお姉さんが並んでいたところに横入りをする。するとお姉さんはその列から抜け前方に行き、検査官に出発時刻が迫っているので先に検査してもらえるように頼む。半ば強引に検査官を説得し、僕らは並んでいる人たちに注目されながら前方にすすみ、再び横入りして手荷物検査をしてもらう。 ここでまたもハプニングが襲う。バックパックに入れたと思っていたナイフが、なんと僕の手荷物にあるではないか!!!
(うわ。ごめんなさい。何もしないので見逃して。)
しかし、検査官は僕に冷たい目を浴びせながら没収した。ここでもお姉さんは時間がないことを検査官に説明し、僕はいろいろと言われずに乗り切ることが出来た。それが終わると、僕はお姉さんに出国審査までダッシュされられる。
「急いでください。こちらです。」
ここ数年したことのない速さでダッシュする。やっとの思いで到着すると、すでにさっちゃんが並んでいる。そこへまたまた横は入り。
(ごめんなさい。)
2番目まで来たときに先頭の人が、
「お急ぎですか?お先にどうぞ。」
(おー。世の中にはいい人もいるものだ。ありがとー。)
そして、無事出国審査も通過。搭乗口まで再びダッシュする。が、これが遠い。手荷物検査から出国検査までの距離と比較にならないほど。10倍以上の距離があるのではないだろうか?一番端に近い33番ゲートまで、ひたすらダッシュする。少しでもスピードが落ちるとお姉さんが、
「急いでください。こちらです。」
と言い、僕のおしりを叩く。
(うわー。拷問だ。こんなに苦しい思いをするなら、旅行はあきらめてもいいかなぁ・・・)。
でも、頑張ってダッシュする。すると急に後ろからと声が。
「落としましたよ。」
 酔い止め薬を落としたようだ。どうもすみませんと思いながらも声に出ず、それを受け取って再びダッシュ。猛然とダッシュ。もう限界と思ったときにやっと33番ゲートが見えてきた。やった。もう少しだ。気を取り直しダッシュ。ダッシュ。ダッシュ。
・・・・・。
(やったー。着いたー。)

 航空券を機械に入れて機内へ行こうとしたそのとき、物かげに怪しい人影が・・・。その正体は手荷物検査官だった。この時期、手荷物検査を二回行っているようだ。
「手荷物を拝見させてください。」
(これはなんだ。嫌がらせか?)
しぶしぶリュックを渡す。検査官がカバンの中身を調べる。そして、ひとつのものを指差しながら、
「パソコンですか?」
と検査官。僕は息をあげながらうなずくと
「電源を入れてください。」と。
(おい。ここまで来て僕の何を疑うんだよ。)
この善良な市民は、言われたとおりパソコンの電源を入れる。 異常なし。 やっとの思いで登場口に行き機内へ。ファーストクラス、ビジネスクラス、エコノミークラスの方々の冷たい視線を受けながら、出発予定時刻の五分遅れで無事席に着陸。飛行機は汗をびっしょりかいた夫婦を乗せて、すぐに離陸した。

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